メープルマウンテン日記

メープルマウンテン日記

森のガーデニング、食べ物の栽培・採集やバンクーバー島での田舎生活など。

山火事と放火犯

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2018年夏のメープルマウンテン森林火災の跡(今日撮った写真)。火事直後の写真もあるが、痛々しいので、雪景色の写真だけにしたい。

 

私が住んでいるのはカナダの西海岸だが、12月から、時間がある範囲でオーストラリアの火災関連のニュースを追っている。今朝オーストラリアのニュースを聞き流していたら、二つの火災が意図的に放火されたものであることが判明したと報道していた。この報道について思うところがあった。

 

2018年にうちの裏(メープルマウンテン)で起こった山火事は、少しずつ離れた数か所でほぼ同時に燃え始めたもので、放火によることが明らかだった。警察では犯人も分かっている(証明はできなかった)。そのことを友人に話すと、よくある反応は、「自然発火じゃなかったんだね。犯人も判明しているなら、これからは安心だね」というものだ。もちろん親身になってそう言ってくれるのだが、私自身がこのときの経験から学んだのは別のことだ。一部の放火犯は説得不可能な存在で、コミュニティや警察が原因を究明しようが、放火の危険を叫ぼうが、止められる人たちでは無いと思う。そして、そういう人たちは数は少なくても必ず出てくるのだと思う。

 

当時経験したことを少し書かせてもらう。

 

メープルマウンテンで火事が起こったとき、私はすぐには気づかなかった。それで、うちの犬のキナ(当時2歳)が裏の森の中で何かに吠え続けて止めないのを、クマがいるのだろう思い、家から70メートルほど森に入ってキナを引き戻そうとした。

その時目にしたのは、信じられない光景だった。キナの前に男が立っていて、私と一瞬目を合わせたかと思うと、翻って森の奥へ一目散に走り始めた。サラールやヒイラギが腰の上まで伸び、倒木なんかもあって走りにくい茂みの中をだ。そして、走り始めたその後ろ姿は全裸で、 木洩れ日が当たった金髪と白い臀部が記憶に残った。

私は、正気を失って山に迷い込んだのかと思い、遠回りとなるがトレイルをたどってその男を追った。「大丈夫ですかあ?」と叫びかけた。しかし、その男は森の中を駆け続けて走り去り、茂みをゆく音も聞こえなくなった。

 

首をかしげながら家に戻ったところに、隣人から電話があり、うちの裏の方で火災が発生しているらしいこと、そして空を飛んでいるヘリコプターは消火活動中らしいことを教えられた。電話を切り、妻と子ども達に避難の準備開始を頼み、状況を把握しようと丘を駆けあがると、丘を越えた目の下には大きな赤い炎が見えた。

家に戻り家族と荷物をまとめていると、消防車がうちに複数台上がってきて、うちより奥には家がないことを私に確認し、そのうえで、うちの庭にプールを設置すること、うちを消火活動のベースに使うこと、そして我々が即座に家を空けて避難しなければならないことを告げた。

荷物を積んだ車で家から離れながら、「もうこの家に帰ってくることは無いのだな」と、本当に切ない気持ちになったものだった。

 

避難した先の隣人宅で、先ほど見たあの全裸の男は、私の白昼夢だったのだろうか、あるいはあれは現実に起こったことで、火事と関係があったのだろうか、という話になった。やってきた警察官にもその話をしたところ、警察官は、「その男は既に捕えて我々の手の中にあります」と教えてくれた。

 

その後分かったことだが、火事は、トレイルを辿ってうちの方向に向かう線上で、3か所(あるいはそれ以上)で順次発生していた。全裸男がうちの裏を次の放火場所にしようとしていたことが推測される。うちのすぐ裏で放火が未遂に終わったのだろうことも、そこから先ではもう放火が起こらず、男は走っていった方向の町に出たところで捕えられたのも、うちのキナの手柄だったと私は思う。

私は鎮火後に警察官と州の森林保護官から詳しい話を聞かれたのだが、その全裸の男が手に放火する道具を持っていたかが彼らの知りたがったことだった。残念ながら、私は、手に何かを持っていたかまでの詳細には目が届かなかった。犯人は黙秘を続け、結局物的証拠も上げられなかったと聞いている。

 

ここで言いたかったのは、上に書いたとおりで、放火犯には抑止出来ないような人たちがいるだろうということだ。また、一人捕まえても、放火を止められない人はまた別に出てくるのだと思う。

山火事は、確かに発火が無いと始まらない。我々の近隣でも、住人で協力して、タバコを吸うハイカーを締め出したり、火花を出しかねないモーターバイクでのトレイル進入を止めさせたりしている。しかし、発火そのものをなくすのは難しいと思う。

 

基本的な火事対策と、遠回りであっても気候変動を抑える行動を進めてゆくしかないのだと思う。